2020年9月19日土曜日

農鳥小屋の親父さん

  「フレキシブルに行こう」


農鳥小屋の親父さんがよく口にしていた独り言のようなこの言葉を
通勤途中とか、お風呂に入っている時とかに思い出すことがあります。

親父さんと会ったのは五年前の2015年8月。
失恋して傷心の私を励まそうと友人夫婦が白根三山縦走を計画してくれました。
初めてご一緒する友人の同僚が山岳部出身とのことで
超遅脚の私はテント泊を諦めて小屋泊することに。

一泊目は北岳山荘にするとして二泊目を農鳥小屋にするか大門沢小屋にするか…
大門沢小屋まで下ってしまうと景色は楽しめないので
できれば農鳥小屋に泊まりたいけど有名なあのウワサ…

『農鳥小屋の親父さんは怖い』

怒鳴られたとか、口が恐ろしく悪いとか 
いずれのエピソードも小心者の私には十分なインパクト。
友人と相談の結果、同じ意見で「大門沢小屋泊」することに。

初めての白根三山。
距離が長いし富士山に次ぐ標高なので他の山で高度と距離に体を慣らして
待ちに待った10日間天気予報は

一日目:雨
二日目:雨
三日目:曇

チーン。。。

結局そのまま天気予報は変わらず
景色は半ば諦めて二泊三日を無事に縦走することに気持ちを切り替えて
雨の降る中出発しました。

15時ごろ北岳に登頂するものの視界はゼロ。
「もしかしたらちょっとくらい晴れるかも。。。」という薄い期待は打ち砕かれて
明日もこのままの天気で計画通り大門沢小屋まで下ってしまうと恐らく
景色は全く楽しめないまま下山することになりそうです。
「ねぇどうする?」
「農鳥小屋に留まって三日目に天気が回復すれば農鳥岳までの稜線は楽しめるよね」
「そうだよね。」
「農鳥小屋かぁ…」
おっかないエピソードが思い出されてやっぱり躊躇してしまう。

「でもせっかく来たのに景色見れないのもなぁ」
「だよねぇ」
「…農鳥小屋、泊まってみる?」
「…そうだね。あくまでもウワサだしね…」
とは言いつつ一つや二つではない評判に
”きっと怖い人であろう” 
と全員が思ったものの稜線の景色を諦められず農鳥小屋泊をとることに。

翌日。
やっぱり雨が降って視界のない中、間ノ岳を踏み
農鳥小屋へ大きく高度を下げている途中。
ガスの切れ間から農鳥小屋の屋根が見えたと思ったとたん、急に厚い雲が流れて
一気に景色が!!!!

この『ずっとガスってて真っ白だったのに、急に雲が流れて景色が開ける』シチュエーション。
以前、剣岳で経験したのが初めてでしたが
なんか、もう、震えるというか、しびれるというか
なんの信仰心もないのに思わず
「神様!!!」って言ってしまうほどのショックがあります。

どうも今回の4人は全員同じ性質だったらしく
気が付いた時には一斉にザックを投げ捨て飛び跳ねながら何か叫んでました(笑)

ちょっと落ち着きを取り戻したところでザックを背負い直し
景色を楽しみながらゆーっくりと農鳥小屋に向かいます。

小屋の前まで来て緊張しながら親父さんを探していると、
犬がいる!犬が住んでるんだこの小屋!!
覚悟を決めて、背筋を伸ばして「こんにちはー!」と声をかけると
奥から帽子をかぶった色黒のお爺さんが出てきました。
『この人が、あの!』と心の中で思いながら挨拶していると

「さっき、ザック掘り投げてたろ」

えっ!!見られてたの?!怒られる?!
と思いきや

「うれしかったんだろ~」

あ、あれ??確かに口調はきついけどなんか…思ったより…?

自称、人見知りの友人が
「一緒に写真撮らせてください」
(私はこの子が人見知った所を見たいことがありません…)と言うと
親父さんがしぶしぶ小屋の前のドラム缶に座るので横に並んで写真を撮らせてくれました。
本当は大門沢小屋まで下る予定だったことを話すと

「フレキシブルに行こう」

そう言って間ノ岳から降りてくる登山客を双眼鏡で眺めます。

「あの足取りじゃぁだめだ」「あ、つまずいた」
私たちもこうやって見(守)られてたのか。

それから忙しそうにしていましたが

「フレキシブルに行こう」

とつぶやきながらお仕事されていました。

翌日、
「もう一度来ようよ」
「うん。親父さんが引退する前にね」


滞在中、親父さんとはいろんな話をしましたが
残念ながら詳しい内容は覚えていません。
次に来られるのは何年後になるかわかりませんが
農鳥小屋の親父さんに会いにまた縦走できたらいいな。

そして
私が親父さんと話をしていた頃
下では祖母が天国に逝きました。
慌てて下山し怪我をすることを恐れて緘口令が敷かれ
帰宅してから知った時には出棺直前でした。

あと一日待ってほしかった。
だけど


フレキシブルに。

外壁完成

私が現場離脱している間にちゃーちゃんとそのご友人、私の両親が総力を挙げ 外回りの作業をほぼ終えてくれました。 手術の合間を縫ってたまに現場に見学に行っていたので振り返ってみます。 サイディング ↓ コーキング、野縁 ↓ 化粧破風・鼻隠し ↓ 電気配線 ↓ 雨とい ↓ 軒天 ↓ 足...